初めて直面した患者さんの死と
温かい励ましの言葉
大学で製薬化学を研究していたので、実際に薬剤をどう生かせるのか、最終工程である病院薬剤師の仕事に興味を持ち就職を決めました。今は病棟や外来で薬剤の管理・指導をしながら、悪性リンパ腫の化学療法薬に関する研究もしています。
病棟に出るようになってすぐ、病院薬剤師ならではの出来事に直面しました。患者さんの死です。救えない命があることは頭ではわかっていましたが、勤務を終えて帰る途中、ショックで涙が止まりませんでした。改めて自分の仕事の重大さを自覚した出来事でもあります。今も慣れることはありませんが、薬剤師として少しでも前に進むことが務めと考えています。
大きな転機となる出会いもありました。その患者さんは血液腫瘍で、小さなお子さんがいる30代前半の女性。精神面はもちろん、非寛解(かんかい)状態での移植だったので、肉体的な負担も相当だったはず。にも関わらず、新米の私に「頑張ってね」と温かい言葉をかけてくださったんです。「こんな時になんで他人のことまで?」と衝撃でした。これが、私ががん患者さんの役に立つ薬剤師になろうと思ったきっかけです。
研究に導いてくれた
3人の師に感謝
病棟での経験を機に、血液内科の岡本昌隆先生と恵美宣彦先生の指導を受け、抗がん剤治療による免疫機能への影響の研究を始めました。がん専門薬剤師の資格を取ったのもこの頃です。その後、山田成樹薬剤部長から今までなかなか実現しなかった特別研究員に推薦していただき、今は終業後は研究に専念する日々です。
研究内容を学会で発表する機会もあるのですが、先生方からは決まって厳しいご指摘を受けます。研究→学会で発表→ダメ出し→反省の繰り返しです(笑)。でも、指摘されることがどれだけ貴重か。ディスカッションの大切さも知りました。考えすぎることで、人間関係を築くのに時間がかかる自分の性格も少しは改善され、それが今の自然な形でのチーム医療につながったように思います。
研究は患者さんの役に立つ
ための一つの手段
患者さんのベッドサイドにうかがうことは、すごく意味があると感じています。例えば、吐き気が出にくいといわれている抗がん剤を使用しても患者さんが激しく嘔吐されることがあります。それが患者さん自身の代謝排泄能の違いなのか、不安の影響なのか、ガイドラインの位置づけと相違があるのかと疑問を持ちます。それを調べたり、医師や看護師と相談する中で、何か対処法が見つかるかもしれません。それが薬剤師の仕事です。現場で感じた疑問や問題をいかに患者さんの役に立つ形で還元するかはとても重要。研究もその一つの手段だと思っています。
今、薬剤師ができることはどんどん広がっています。大学病院は規模が大きいぶん、実現の可能性も、何かを発信した時の影響力も大きい。それだけに責任とやりがいを感じます。