京都第二赤十字病院

業種 病院
2022年取材記事
救急領域の薬剤師業務の確立と地域の災害対応力向上に力を尽くしたい。
薬学部 2012 年卒業
私のCAREER
救急外来専任薬剤師

救急病棟と救急外来を兼務し、多職種と協働する中で、患者さんの状態改善に貢献できることにやりがいを感じるとともに、救急領域における薬剤師業務の確立・標準化にも使命感を持って取り組んでいます。また、地域の災害対応力向上にも尽力しています。

11年のCAREER

  • 1年目

    入職
    調剤・病棟業務に従事

    調剤をはじめ薬剤師として基本となる業務を幅広く学ぶ。10月から脳神経外科と眼科からなる一般病棟に配属され、病棟での薬剤管理指導業務を経験

    POINTを見る
    閉じる
    ここがPOINT1

    患者さんの中には意識がはっきりせず、話せない方もいて、最初のうちはどう対応すればよいのか悩みました。身体所見やご家族からの情報など、周辺情報を丹念に集めて、処方提案に活かすように努め、少しずつ状況を把握する力も向上していきました。

  • 3年目

    NST研修を受講し回診に参加
    糖尿病療養指導士資格も取得

    NST(栄養サポートチーム)の研修に参加し、どのような患者にも必要となる栄養領域を学び、回診にも加わる。また学生時代から興味のあった糖尿病領域も病棟業務の合間に学び、日本糖尿病療養指導士の資格を取得

  • 4年目

    救急病棟および
    日赤災害救護班に配属

    救急病棟は、救急搬送された患者が入院する病棟で、診療科を超えたあらゆる疾患に対応。得られた知見をスタッフ同士で共有し合い、知識と視野を拡大

  • 8年目

    日本DMATの
    隊員資格を取得

    前年に経験した災害派遣を経験したことで、より災害時に活躍できる対応力を高めたいと、DMAT(Disaster Medical Assistance Team)の研修を受講し、日本DMATの隊員資格を取得

  • 10年目

    救急外来も兼務

    救急病棟を担当しながら、救急搬送患者を受け入れる「救急外来」も兼務。これまで薬剤師が介在してこなかった新たな領域での薬剤業務の確立に挑戦中

    POINTを見る
    閉じる
    ここがPOINT2

    救急外来の薬剤師業務を組織として安定的に継続していくには、業務の標準化に加えて、臨床教育や経験の共有が重要です。例えば蛇に噛まれたというようなレアケースも、現在救急外来に携わっている薬剤師4人で共有し、チームの経験値を上げたいと考え、取り組んでいます。

多領域にまたがる薬の知識で
より安全な治療に貢献

 実習先の病院で、薬剤師がチーム医療の一員として活躍する様子を見て、「私も多職種と連携し患者さんに貢献したい」と病院薬剤師を志望。大規模な総合病院でジェネラリストとして幅広い基礎を身に付けたいと、京都第二赤十字病院への入職を決めました。
 1年目は、調剤業務を徹底して学ぶことから始め、10月からは脳神経外科と眼科からなる一般病棟にも上がるようになりました。まだ病棟に薬剤師がいることが今ほど当たり前ではない時代にあって、チームの一員として病棟で不可欠な存在になりたいと、医師への処方提案にとどまらず、その後の経過も責任を持って見守るなど、病棟薬剤師の在り方を模索していました。
 高度急性期病院である当院に来られる患者さんの中には、複数の疾患を持つ方もいて、既往歴まで含めると治療薬の種類は膨大です。相互作用の確認はもちろん、もともとの病気を悪化させることなく安全に治療を行うにはどうすべきかという観点は非常に重要になります。担当医師の専門領域外の薬など、多領域にまたがる豊富な知識を持つことで、薬剤師の存在価値は高まり、安全性の担保にも非常に大きな役割を果たすことができると実感。膨大な薬の知識習得により励むとともに、看護師との情報共有など連携の強化をより意識するようになりました。
 栄養面からの評価もできるようになりたいとNST(栄養サポートチーム)にも参加し、また既往歴に多い糖尿病に関する知識も深めたいと勉強して、糖尿病療養指導士の資格を取得しました。

災害派遣での体験を糧に
さらなる成長へ

 4年目には、救急搬送された患者さんが緊急措置を経て入院する救急病棟に配属。救急医療は災害にも関わるため、同時に日赤災害救護班にも配属され、研修や訓練を受けました。
 西日本豪雨が発生したのは入職7年目のこと。大きな被害を受けた岡山県倉敷市への災害救護に初めて派遣されました。発災から1週間後でしたが、泥まみれでほこりが舞う光景は今も目に焼き付いています。小学校の体育館には約400人の被災者が避難。保健室を臨時の救護所にして処置を行ったほか、普段飲んでいる慢性疾患の薬が流されてしまった人に必要最低限の薬をお渡ししたり、開いている病院や薬局の情報を取りまとめて提供したりしました。
 ただ、災害救護班はあくまでも急場をしのぐためのチームです。1つの班が現地に滞在するのは2、3日。できることが限られる中、どうすれば現地の医療を立て直していけるかということを考え、次の班にバトンを渡すように心掛けました。実際に被災地での支援を経験したことで、その後の研修にもより明確な問題意識を持って取り組めるようになっていると感じています。

地域全体の災害対応力を高め
有事の際も地域医療を守りたい

 災害派遣の翌年、自身の災害対応力を高めたいとDMAT(Disaster Medical Assistance Team)の研修を受講し、隊員資格を取得しました。
 災害医療は、被災地の救護だけではありません。自分たちの地域や施設が被災したとき、薬剤師として、医療者として、人として、何をすべきか、何ができるのか。自分の地域を、患者さんを守れるのか。平時から考え、備えておく必要があります。
 DMATの知識を生かし、院内の薬剤部でマニュアル的な資料を作成したり、有志を集めた勉強会を開いたりしているほか、院内にとどまらず、DMAT資格を持つ薬剤師との交流や、京都府病院薬剤師会の領域別カンファレンス、近隣の保険薬局など多様なコミュニティとつながりを深めながら、災害時にも地域の医療を守るために、普段からどのように連携すればよいのか考えたいと思っています。当院は災害研修・訓練が充実しているので、いずれは他病院や薬局にも研修・訓練の場を提供し、地域全体の災害対応力の向上に貢献していきたいですね。

救急外来という新たな領域を
開拓し、医療安全に貢献

 10年目からは、救急病棟を担当しながら、救急搬送患者を受け入れる「救急外来」も兼務しています。薬剤師が救急外来に常駐するのは当院として初めてのことで、全国的にもまだあまり例がありません。私自身、どうすればチームの一員として機能できるのか、手探りのところもありました。
 実際、救急外来の現場に出てみると、救急車で運ばれてくる患者さんに対し、医師は秒単位でバイタル測定をしながら診断し、手術や投薬などの処置をし、看護師は処置の補助で余裕のない中、医師が指示した薬を瞬時に妥当性を判断して、正しい薬を用意しなければなりません。処方箋を薬剤部がチェックするという通常の工程がなく、スピードが優先される中で、どう安全性を担保するかが大きな課題で、薬剤師が介入することの重要性を痛感しました。
 私のような薬剤師が現場にいれば、正確に過不足なく薬物治療が行われるかチェック機能が働き、調製なども行うことで、看護師は処置に集中できるようになります。医師もその場で薬剤師に意見を求めたり、相談したりすることができ、負担や不安の軽減につながります。現在は平日の昼間のみの配置ですが、将来的には夜間や土日にも拡大し、さらなる医療安全の確保に貢献したいと考えています。そのためにも、今後は救急現場での薬剤師の有用性について情報発信していくことも私の役割だと考え、取り組んでいきます。

TO MY FUTURE

Myタイムカプセル

5・10年後の私

実際に救急外来を担当するようになって、薬剤師が介在することの意義を強く感じているのですが、現状ではまだ救急外来の薬剤師業務は確立されておらず、論文もあまりありません。救急外来の医療安全の確保に、薬剤師がどう貢献できるのかなど、日々の業務を評価分析し、学会での成果報告や論文のような形で情報発信していくことが重要だと考えています。こうした活動を通じて、診療報酬としても認められ、救急外来での薬剤師業務の確立につなげていく力になりたいと思っています。

これが成功の分岐点

救急病棟と災害救護班への配属で
医療者としてのマインドセットが変化

入職4年目に救急病棟と日赤災害救護班へ同時に配属されたことで、災害救護の研修や訓練を受けることになり、日常の医療とは全く異なる災害への心構えを学び、非常事態であってもしっかりと役割を果たせるようになりたいと強く思いました。そのためにも日ごろからの準備が大切と、知識習得にも熱が入り、研修にも現場の状況を考えながら取り組むなど、救急と災害で学んだことは、今の私につながるバックボーンとなっています。

私流自分の磨き方

医学書だけでなく患者起点で
臨床に役立つ生きた知識を習得

医学書をただ読むだけでは臨床に活かせないと思っています。患者さんを起点に、ベッドサイドへ行き、カルテを見て、他のスタッフと意見を交わし、分からないことを調べるために本を開く。「その患者さんにこんなことが起きたらどうすべきか」などとシミュレーションしたりしながら学べば、現場で役立つ生きた知識が身に付きます。

学生の皆さんへメッセージ

現在の夢に固執し過ぎることなく
自分の可能性を広げてほしい

自分が目指す夢や目標が叶えられる職場かを見極めることも大事ですが、必ずしも“今の夢”に縛られなくてもいいとも思います。視野が広がれば、やりたいことも変わってくるものです。私自身、学生時代には救急・災害医療に全く興味はありませんでした。いろいろなことにチャレンジし、幅広い経験を積み、自分の可能性を広げていってほしいと思います。

オフタイム

コロナ禍のステイホームにより、読書の時間が大幅に増えました。医学書ばかりでなく、さまざまな分野の書物を読むことで視野を広げています。コロナが収束すれば、現地開催の学会や家族・友人等との旅行などでいろいろな場所を訪れ、綺麗な景色やご当地グルメを堪能したいですね。

その他の先輩社員を見る

ページトップへ戻る